突撃★インタビュー「仕事で活躍するために必要な力」

各大学のキャリアセンターの方が考える「仕事で活躍するために必要な力」についてのインタビューを紹介いたします。

インタビュー「仕事で活躍するために必要な力」_5川村学園女子大学

「忍耐力・コミュニケーション力」―川村学園女子大学 就職支援室 室長:塚本一史氏、学生生活支援室 室長:津野 宏之氏

 「仕事で活躍するために必要な力」を切り口として、各大学のキャリアセンターの方々のご意見を紹介いたします。

 今回は、川村学園女子大学 就職支援室 室長:塚本一史氏、学生生活支援室 室長:津野 宏之氏にお話を伺いました。


――新卒の新入社員が就職して3年以内に辞めてしまう離職率が問題視されていますが、新入社員側にはどのような原因・問題が考えられるでしょうか?

塚本氏:
 私が思うには、最近の企業の風潮として、キャリア組などの即戦力を求めているように感じます。特にホテル業界では、新人ではなく、経験者を採用しようという動きも強く感じますので、前向きの離職のケースもあるかと思います。
 悪いケースで言えば、そんなに苦労しないで育ってしまっているというのがあると思います。


――御校の学生でも、そのような学生は多いですか?

塚本氏:
 壁にぶつかってしまい、くじけてしまう学生は多かれ少なかれいるように感じます。ただ、本学は小さい規模の大学のため、1対1で語れるチャンスがあるので、モチベーションを上げられるように、凹んでいる学生にも手が届くという意味では、メリットはあると思っています。

津野氏:
 学生側が、嫌だったら簡単に職を変えられるというような感覚で考えている場合がありますね。前向きに離職するというだけではなく、最初に描いていた理想と会社の実態が違うみたいだと感じたころから、だんだん仕事に対しての意欲も失われてきて、やがて辞めてしまう。その後、正社員として転職するというよりも、気楽にアルバイトしながら場つなぎでやっていくという対応を考えている例は少なくありません。

塚本氏:
 実際、今の4年生が内々定をとってくると、意気揚々としていい顔をしていますが、持っていたイメージと現実との違いを、ギャップとして捉えすぎているという部分もあるかと思います。学生が企業に就職してから、「当然ギャップもあるだろう」という感覚を持てるのか持てないのかというところがあるかと思います。


――そういったギャップが起きてしまうのは、何が原因だと思いますでしょうか?

塚本氏:
 様々な要因があると思いますが、学生のうちに、多くの挫折を経験した者の方が当然、打たれ強いです。実際に社会に出たら、打たれ強さや上手く立ち回って社会を生き抜くための技が必要だと思います。そういった意味でいろいろな経験ができるチャンスをいかに与えられるかが大事だと思います。大学だけの話ではありませんが、大学4年間の中でも個人差はあると思います。

津野氏:
 ひどい言い方かもしれませんが、「努力すれば夢は叶うんだよ」ということを言われ続けて育ってきたという部分も、もしかしたら影響あるかもしれないですね。本当に努力が報われて成功した事例があって、それを小さいときから提示されているかもしれませんが、現実にはなかなか自分の進む道には、自分の思う通りにはいかないことがいっぱいありますよね。そこで、どうアジャストできるか、そういう力があるかないかだと思います。
 描いていた理想と、会社の実態が違うと気付いたときに、自分自身もその会社組織の一員であるから、自分の理想に近づけるように努力して仕事を続けるのか、それとも第三者的な発想で、自分の理想とは合っていないと思って退くのか、という違いだと思います。一般的に、後者の事例を耳にすることが多く、今の若い者は我慢強さがないとか、簡単に諦めてしまう、というように結論付けされてしまうのだと思います。前者のように対応できる人は、あまり多くはないかと思います。理想としては、そういう学生を育てたいですね。大事なのは、柔軟に対応する力や柔軟に変化できる力ですね。
 運動会でも、順位を付けない運動会を実施するところもありますが、競争することをさせないということですが、社会ではそうではないことがいっぱいあります。

塚本氏:
 実際、就活が始まって、急に競争とか、人を押し退けてでも勝たないといけないという教育をしても無理だと思います。今までそういう状況にない現場で育ってきているので。


――今までの教育と変わることで、戸惑う学生も多いですか?

塚本氏:
 そうですね…結局、戸惑っているのだと思います。大学1年、2年と階段を上ったけども、いざ就活で何をすればいいかわからない。自分は何がしたいのか?というところからだと思います。
 私は、今年6月まで入学支援室にいたので、高校生と接することが多かったのですが、「私はお菓子やケーキが好きなので、将来食品関係で働きたいんです」という高校生と出会いました。「そうなんだ。じゃあ、そこで何をやりたいの?」と聞いたら、「あー…」と言って黙ってしまいました。そこで、「できた商品を多くのお店に置いてもらう営業もいれば、商品開発など研究職の仕事かもしれないし、福利厚生を含めた給与計算などの事務の仕事かもしれません。組織って結局、いくつも分業してひとつになっているんだよ」ということを説明したら、「あっ、そうなんですね」と、その高校生はそこで改めて気づくということがありました。自分が持っているスキルに視点を置けば、お菓子の会社以外にも視野を広げることができると思います。
 そういったところの教育は、大学教育は充実してきていると思います。一般教養と専門科目だけがカリキュラムにあればいいというのが昔の大学でしたが、今は、キャリア教育自体がカリキュラムの中にありますから、昔よりも手厚く取り組んでいると思います。ただ、50人、100人、200人集めて座学をやるだけではダメだと思います。ピンポイントでその人に合わせたアドバイスが必要だと思います。


――その人に合わせた教育というのは、御校ではどういった形で取り組まれているのでしょうか?

塚本氏:
 9月に実施する3年生を対象とした個人面談があります。学生に履歴書に準ずる進路調査書を作成してもらい、我々就職支援室のスタッフが1対1で面談をするという流れでやっています。そこで個々の学生に合ったアドバイスをしています。3年次に、そういった面談をすることで、学生が進路をどう考えているかを適宜追跡できるようなシステムにしています。その学生に合った何かがあるのではないかと、一緒に探るというように、きめ細かくやっています。
 ただ、ジレンマというか、いろいろと問題もあります。うまく波長が合った学生は、何回も足を運んでくれるのですが、本当はもっと来てほしいと思う学生がなかなか来てくれない。1対1が有効だと思っていても、そのような環境や場をいかにして作れるか、だと思います。もっと接触したい学生を、どのようにこの就職支援室に足を運ばせるかが課題です。有料講座とか、自分で一歩踏み出さないと受けることができない講座などへいかに足を運ばせるかも課題です。


――本当に来てほしい学生は、どんな学生なのでしょうか?

塚本氏:
 私は、活動が止まっている学生だと思っています。

津野氏:
 やらなきゃいけないことはわかっている。でも一歩が踏み出せない。こちらからも、本当はそういう学生に来てほしいと思っていても、そういう学生の方が、我々の就職支援の部屋を利用する機会が少ないです。
 各学科に担当教員とは別に、「教務補助」という各クラスの事務職がいるのですが、そちらでも悩みを聞いてもらったり、背中を押してもらうようにしてもらったり、とにかくなるべく来てほしい学生に足を運んでもらうように工夫しています。


――やらなきゃいけないとわかっているけども、なかなか動けないのは、何が原因なのでしょうか?

津野氏:
 ダメ出しが怖いというのを聞きます。動くことで、悩むことや困ることがあると思います。当然、就職活動もそうですが、1社2社受けていい結果が出ればいいですが、それでうまくいかなかったりしたら、そこで就職活動を辞めてしまう学生もいます。
 先ほどの話につながりますが、今まで育ってきた中で、ダメと言われることを自分で受け入れる経験をしていない。我々は「ダメもとでもいいから挑戦しろ」と言うけども、本人たちは「ダメもとがヤダ」と思っています。その意識を変えないと就職に結びつかないと思います。
 就職支援課室から働きかけたり、学科の教員から働きかけたり、外部の講師の方から働きかけたりして支援していると、何かきっかけを掴んで学生の様子がガラッと変わることがあります。その変化が、いい結果に結びつく前兆と思っています。


――そのガラッと変わる瞬間は、何がきっかけなのでしょうか?

津野氏:
 なんでしょうね。その人、その人によって、切り替わるタイミングやきっかけは違うと思うのですが、変わると顔つきや仕草が大きく変わってきます。

塚本氏:
 きっかけというのはいろいろあると思います。オープンキャンパスで、各学科で応援学生を出すのですが、これまでサークルにも入らず、大学に来て授業受けて帰るという日常を過ごしていたというような学生がいました。その学生が、オープンキャンパスの手伝いをやったことで考え方に変化が表れ、「大人(大学の職員など)が自分の存在をわかってくれた。頼りにしてくれている。」と感じたそうです。それから就職支援室へ来るようになったという学生も何人かいます。
 オープンキャンパスや学友会、SA(Student Adviser)というのもあります。
 SAは、好きなことややりたいことがあれば、どんどん企画してイベントを単発にやっていこうという学生主体のサークルのようなものです。例えば、着付け教室。浴衣を自分で着てみんなで花火をしようというものや、バーベキュー大会などさまざまなものがあります。

津野氏:
 学生はいろんなものを探してきますよ。味の素とコラボして、料理教室をやったりしました。食材や調味料を提供してもらうなど、企業様にしても商品の宣伝にもなるでしょうし、学生にしても、大学周辺に住んでいる1人暮らしの学生も多いので、自炊の勉強になるというお互いにwin-winの関係になっています。4年生が、就職が決まってからSAに参加して、就活のノウハウを後輩に伝えたいという意図で就職応援セミナーというものを企画して実施していたりもしました。


――ここまで、柔軟性や忍耐力、自分で動ける力など出てきましたが、仕事で活躍するためには、どういった力が必要でしょうか?

塚本氏:
 ありふれた言葉ですが、コミュニケーション力が大事だと思います。また、いくつかの挫折を経験することも非常に大事かと思います。相手の立場になって考えたり、人の話を聞いたりできる者は、如何なる時もうまく対処できる力を備えているのではないかと思います。


――先ほども、打たれ強くなるために、挫折を経験できるチャンスや場が必要とのことでしたが、どういった形で失敗を提供されているのでしょうか?

塚本氏:
 就職活動中の学生に声掛けをするのですが、そこで落ちてしまった学生への声のかけ方なのですが、私は「そうか…じゃあ、誰よりも速く5社10社落ちてみようよ。のちのち、TVニュースで10社20社…50社落ちていますという不思議と元気のいい学生がいっぱい出てくると思うよ。」というような失敗することを怖がらせない声掛けはしています。
 あとは、就職課支援室の管轄ではないのですが、リーダー研修というものもやっています。

津野氏:
 学生の活動を活性化させたいと思って、今年3月から取り入れています。9月にも実施するのですが、リーダーでなくても、興味のある人はどんどん参加しなさいと言って呼びかけをしています。
 そこでは、コミュニケーション力を養成するグループワークをさせたり、社会人基礎力につながるような講座を設けたりしています。一番の狙いは、そこに参加した学生相互のコミュニケーションの活性化です。部活なら部活、サークルならサークルの範囲内では仲良くコミュニケーションがとれるけども、他の組織間を横断するようなコミュニケーションはなかなかとれないですよね。お互いに情報を共有しながら会話ができるようになり、新たなコミュニティーを構築して、いろいろなイベント企画をやってくれたらいいと思っています。

塚本氏:
 あとは、失敗の経験ができる場所としては、オープンキャンパスだと思います。在学生の懇談コーナーで高校生と経験談を話す以外に、受付をしたり、案内をしたり、様々なことを担当してもらいます。社会人基礎力にある3つの力、アクション、シンキング、チームワークを学べる場だと思います。「高校生のためのオープンキャンパス」ということだけでなく、学生にも自分の成長の場としてこの場を利用してほしいということを、始まる前に伝えています。それがある意味、失敗を提供できる場かなと思っています。


――就職支援室として、今後の課題・展望をお聞かせください。

塚本氏:
 本学は、去年の就職決定率が98.1%だったのですが、やはり我々現場としては、就職希望者の98%ではなく、就職希望率自体を底上げしたいと思っています。女子は、昔は就職しなくてもいいというような時代がありましたが、今はそういう時代ではありません。けれども、男子と比べるとやはり就職希望率は低いと思います。本学の就職希望率は76.2%というところなので、これを80%くらいには上げていきたいというのが今後の課題です。



(この記事は、2014年7月某日に、川村学園女子大学 就職支援室内でインタビューした内容をもとに構成されています。)