突撃★インタビュー「仕事で活躍するために必要な力」

各大学のキャリアセンターの方が考える「仕事で活躍するために必要な力」についてのインタビューを紹介いたします。

インタビュー「仕事で活躍するために必要な力」_3成城大学

「他者と協調しながらも、自らを高め、集団を牽引する力」―成城大学キャリア支援部キャリア支援課 主任:長尾繁樹氏


 「仕事で活躍するために必要な力」を切り口として、各大学のキャリアセンターの方々のご意見を紹介いたします。
 今回は、成城大学キャリア支援部キャリア支援課主任:長尾繁樹氏にお話を伺いました。


――仕事で活躍するために必要な力は、どのようなものだと考えていらっしゃいますか?

 本学は、今まで展開してきたキャリア教育のプログラムを、平成23年度から体系化して、「就業力育成・認定プログラム」という形で展開しています。このプログラムの大きなテーマとして「未来社会に貢献できる就業力を育成する」ということを掲げ、「他者と協調しながらも、自らを高め、集団を牽引する力」を「成城の就業力」として定義しました。具体的には6つの要素から成り立つと定めています。
 近年、日本の教育においては、社会人基礎力や学士力など力を規定するものが非常に多く、大学界でもそういったものを各大学でも取り入れておりますが、本学では既存の指標は使わず、あくまでも成城大学オリジナルの力を定義・構築し、プログラムを展開しています。その中には、単なるテクニックやノウハウだけではなく、学生自らが考え行動していくことができるようになることが最重要であると考え、マインドとテクニックの両輪から学生を育成しています。


――マインドとテクニックを身につけてもらうということですが、具体的にはどういった形で提供されているのでしょうか?

 「就業力育成・認定プログラム」は、正課(授業)と正課外(授業外)の2つのプログラムから成り立っています。学生は、1年生から4年生まで成長段階に合わせて、さまざまなプログラムを受講することで自身が成長していくことをイメージし、本来の各学部学科の専門科目と並列して受講することにより、相乗効果をもたらすことを大事にしています。


――自ら考え行動する力や実践能力が、なぜ必要だと思いますか?

 もともと、このプログラムを作る際に、成城大学の卒業生に対してどんなイメージを持っているか、企業の皆さまへインタビューをさせていただきました。そこで象徴的かつ印象的だったのが、「真面目で努力家である学生が多い。特に、人間関係構築力は非常に優れている」という声がある一方で、「先頭に立ってチームを引っ張っていく力や、何もないところから新しいものを創り出す力やチャレンジする力はやや弱い」という声をいただきました。
 本プログラムでいう「他者と協調しながら」という点は、今までの成城大学の教育の強みですが、それだけではなく「自らを高め、自分自身が能動的に学んでいく」という点を兼ね備えた人材が必要ではないかと考え、そこを更に伸ばしていこうというのが大きな狙いです。
 成城学園は、個性を尊重することを重視しているため、他者と異なっても良いということを認識していることから、自分が1番になろうという力は弱いという印象です。
 今回のプログラムは、即効性で何かを身に付けさせようというものではなく、遅効性でゆっくりじっくり育てていくことを重視しています。我々は、すぐ答えは提供せず学生自身が考えたり悩んだり、その過程の中で調べたり、研究したりする中で、自らが発見して気付いていくということを大事にしています。
 捉え方によっては、学生本人も「何で答えを教えてくれないのだろう?」とモヤモヤしていることもありますが、この過程を経ることで、自ら積極的に能動的に取り組み問題をどう解決するか、また、他のメンバーと協力しながらも、中心になって引っ張っていくという力が育まれると考えています。
 目の前ですぐ答えが出ないものは、教育界では教えづらいと考える一方、そういった考え方を学校で育まないでどこでやるのかとも考えています。卒業後に学生が、自分で自分の人生を切り拓いていくことができるように、自ら問題意識を持ったり、考えたり、行動したり、誰かに協力を仰いだり、自ら選択する力を、学生時代に培ってもらいたいと考えています。それには、必ずしも成功体験だけでなく、失敗体験もあってはじめて人間は成長していきますので、様々な形で体験・経験することを大事にしています。


――失敗体験をすることが大事ということですが、プログラムの中で意図的に失敗体験をさせる仕組みはありますか?

 あえて失敗をさせるということは、さすがにしませんが、例えば、学年を越えたチームでのプロジェクトで課題に取り組む中で、タイプ・専門性、学年等が異なることからハレーションが生じて、それぞれの主義・主張が出てくれば、そこでぶつかることもあります。そのときに、我々は「あなたはこうしなさい。君はこうしなさい。」というようにすぐに解決するということは、なるべく最後の手段として取っておきます。
 自分たちで解決していけるような経験がないと、結果的に誰かが助けてくれるという思考になってしまいますので、なるべく自分たちで考えさせ、それでも難しいという場合はサポートしますが、まずは自分たちで解決させるということを重要視しています。また、情報やアドバイスを与え過ぎないということも」意識しています。


――プログラムは、具体的にどういった内容なのでしょうか?

 プログラムの特徴は、前期は理論や情報・知識をインプットする講義系の科目を中心とし、後期は、前期で培ったものをもとに、実習・演習系の科目を多く用意しています。それ以外の取り組みとしては、希望者には、プログラム自体を広報する活動があるので、学年・授業を越えて、オープンキャンパスやホームページの編集作業に関わったりする者もおります。


――ホームページ上で拝見しましたが、オープンキャンパスで、学生が司会をされたりもするのですよね?

 そうです。学生自らが受けたプログラムや授業を高校生や保護者の方へ紹介するので、自分自身も気付きや振り返りの場になりますし、それを見た高校生や保護者の方が、将来入学後に自分もああなるのかと想像することができ、彼らの姿を見て成城大学へ入学したいと思う人が増えてきています。


――就業力のプログラムは、必修化はされていないようですが、なぜでしょうか?

 このことについては、いろいろなところでインタビューを受けます。みなさん、同じように疑問を持たれるのですが、我々はあえて必修化していませんし、これからもその予定はありません。その理由としては、大きく2つあります。
 1つは、学生が自らのキャリアを考える上で、学生の成長段階や意識によって、当然考え始めるタイミングが異なると思います。ある学生は1年生の段階で考えようとする者もいれば、そうでない者もいるかもしれません。また、こういうプログラムを必ずしも受けなくてはいけないとも思っていません。ただ、1年のときに必要ないと思って受けなかったけれども、やっぱり受けとけば良かったと思うかもしれませんので、2年生からも受けられるようにしています。そういう意味では、選択肢を持たせることで、学生自らが考えて受講するかどうかを決めさせるという狙いがあります。
 もう1つは、必ずしもこのプログラムが万能だとは思っていないということです。大学には授業、さまざまなカリキュラムがあるので、それを学生自身が取捨選択するシステムがあって然るべきだと思っています。「自分はこれを受けてみようと思った」「私はこっちがいいと思う」というようなやりとりを学生間ですることにより化学反応を起し、相乗効果をもたらすと考えています。


――実際には、どのくらいの学生が参加されているのでしょうか?

 1年生の4月の段階で、約240人が受講しています。希望者は年々増えています。本学は1学年が約1400人くらいなので、だいたい2割弱くらいというところです。スタートした当初は160人なので、徐々に拡大しています。


――就業力の中に、「多角的連携による重層的で多様な展開」というものがポイントとしてありますが、こちらは具体的にどういった取り組みをされているのでしょうか?

 授業は、講義だけのものではなく、実習・演習系のものもあります。また、外部の方に協力いただき直接講義していただく、または課題を出していただき、それについて取り組むということもあります。この他にも大学生が高校生にプログラムを提供するといったいわば大学生がキャリア教育を担当する場面もあります。


――キャリア教育を担当ということは、学生が高校生に教えるということでしょうか?

 そうですね。大学生が直接教えるというより、共に考えるという方が近いと思います。
 例えば、内部進学をしてくる学園高校3年生約150人に対して、直前の時期である2月に、大学での学びとはどのようなものか、高校と大学との違いは何か、大学で学ぶにあたってどのようなことが重要かを、様々な形で授業体験をしてもらいます。また、大学生による体験談を踏まえながら、大学生活においてどういう意識が大事なのかということを、大学生と職員でレクチャーしています。
 また、講義形式で一方的に教えるのではなく、グループディスカッションやワークを取り入れています。大学生が高校生とディスカッションをするという場面もありますし、人前で発表することもあり、最終的には、なぜ成城大学に進学したいのかという志望動機まで書かせることを組み込んでいます。より具体的なイメージを持たせるために高校生が志望する学部・学科の大学生をなるべく参加させることも工夫しています。


――プログラムを受ける前と受けた後で、学生の変化はありますか?

 絶えず社会と接点をもつので、自身のキャリアについて考えるということについて、興味関心を持つようになります。能動的に取り組まないと始まらないプログラムであるため、受講生は積極性が高まっていると思います。
 一方で、ネガティブな側面になるかもしれませんが、キャリアについて考える機会が多く、大量の情報が入ってくるので、様々なリスクやメリット・デメリットがわかってしまうが故に、行動が遅くなってしまうことや、躊躇してしまうということもあるかと思います。


――こういったプログラムがあることを知っているけれども、なかなか自分で受講しようという気持ちにならない学生に対しては何か働きかけはされていますか?

 このプログラムは定員を設けているため、全学生数からみると本プログラムを受講していない学生の方が多いです。ただ、本学の場合、学生は各学部・学科において、必ずどこかのゼミナールに所属しなくてはいけません。ゼミナールは少人数制で必修なので、ただ参加していればいいというものではなく、そこで課せられた課題や先生から指導された内容に積極的に取り組まないと単位は取れないので、結果的に、自ら考え行動することを身につけられる場が本プログラム以外にも用意されています。


――キャリアセンターとして、今後の課題・展望をお聞かせください。

 大きく言うと、3点あります。
 1点目は、プログラムに参加していない学生が、どのような行動をとっているかを把握する必要があり、そのような学生に対し、必要であれば、サポートをする場面も出てくると考えています。受講していない学生に対してのキャリア支援をどのようにどのくらいどのレベルで実施すべきかを考えることが大きなテーマではないかと思っています。
 2点目は、現在も取り組んでいますが、プログラムを受けた学生が、自分たちの学部・学科で学びを深めているかを明らかにすることが必要だと考えております。このプログラムを受けた学生がどう成長したのか、どう変化したのかについて、客観的に評価をしどの程度有効性があるのか、必要であれば適宜テコ入れ・改修をすることが必要だと思っています。
 3点目は、より複合的に自身の学びと社会で求められているものをリアルタイムにつなげていくことが必要になっていくと思っています。例えば、現在のプログラムは、国際競争力の育成の視点はあまり取り入れていませんが、グローバルな視点での育成を始め、各学部・学科での学びを深める連携、最終的に社会にどうつなげていくかということが大事になってくると思っております。


(この記事は、2014年7月に、成城大学キャリア支援課内でインタビューした内容をもとに構成されています。)