突撃★インタビュー「仕事で活躍するために必要な力」

各大学のキャリアセンターの方が考える「仕事で活躍するために必要な力」についてのインタビューを紹介いたします。

インタビュー「仕事で活躍するために必要な力」_2工学院大学

「意欲・自らいろんな人と交流するコミュニケーション力」――工学院大学 学生支援部 就職支援課 課長:齋藤伸明氏


 「仕事で活躍するために必要な力」を切り口として、各大学のキャリアセンターの方々のご意見を紹介いたします。
 今回は、工学院大学 学生支援部 就職支援課の課長:齋藤伸明氏にお話を伺いました。


――新卒の新入社員が就職して3年以内に辞めてしまう離職率が問題視されていますが、新入社員側にはどのような原因・問題が考えられるでしょうか?

 離職率の問題は、昔からありましたが、いちばん多い理由として、人間関係の問題が挙げられると思います。年の離れた人たちと一緒に仕事する中で、うまくコミュニケーションがとれず、何か悩みがあっても会社の中の誰にも相談できずに会社を辞めてしまうということがあるのかなと思います。
 あとは、イメージ先行の就職活動で、仕事のイメージと現実とのギャップというリアリティショックによって、自分の働くイメージを持つことができないというのも原因かと思います。


――イメージ先行の就職活動をしないようにするためには、どうしたらいいでしょうか?

 学生のときから、働いている人・社会人とたくさん話し、多くの仕事に接触することが大切だと思います。アルバイトでもいいですが、アルバイトだとほぼサービス業に限定されてしまいます。世の中にはそれ以外の仕事もあるので、いろんな人と接することが大切だと思います。
 その方法の1つとして、インターンシップがありますが、3年生の夏だけではなく、1・2年生のうちから参加して、社会人との力の差を知ったり、学生生活の中でどう課題を解決していくのか考えたり、働くってどういうことなのかということを、しっかり理解することが重要だと考えています。
 一方で、近年、キャリア教育を授業で実施している大学も増えましたが、私が考えるキャリア教育は、そもそも通常の授業の中でできるのではないかと考えています。例えば、基礎的な知識を与える授業がありますが、そういう知識をただ与えるのではなく、その知識がどのように社会につながっているのか、今やっている研究がどう社会に活かされるのかを見せながら教育していくことが大事だと思います。
 ただ実際のところ、残念ながら、今はそこが充分にできていません。きちんと示すことができていれば、学生は自分のやってきたことが社会にどう活かされるのかがイメージでき、仕事への興味や関心も1・2年のうちから持つことができるのではないかと思います。そこがうまくいけば、企業名を知っているから受けるとか、CMで見たことのある会社だから受けるという安易な行動は防ぐことができるかと思います。特に技術者だと、BtoCに限らずBtoBの企業で活躍できるチャンスの方が圧倒的に多いので、そういったところにも目がいくようになるのではないかと思っています。


――興味・関心を持たれている学生は、御校ではどのくらいいらっしゃいますか?

 理系の大学なので、科学とか、モノづくりなどに興味があり、好奇心旺盛な学生が多いですが、その反面、「自分はこうだ」という決めつけ型の学生が多いということもあります。例えば、自動車好きな学生は、自動車メーカー中心に受けに行くのですが、このように意識が強すぎると、逆に自分のその他の可能性を閉ざしてしまう危険があると感じています。自分の興味のある一部のところだけに縛られてしまう懸念があります。


――自分の興味のあることだけに縛られてしまうことのいちばんの問題はなんでしょうか?

 今は、企業においても、この分野を勉強してきた学生だけがほしいという需要はあまりないと思います。例えば、食品メーカーですと、農学部や化学系出身の技術系のスタッフが多くいると思いますが、そこに機械系や電気系の人の知識があるからこそ、工場ができたり、新しい商品の製造ラインが組めたりということが可能になります。「自分に食品業界は関係ない」と思っている機械系・電気系の学生は非常に多いですが、もっと活躍できる場はあるのに、自ら選択肢を狭めてしまっていることはもったいないと思います。
 つまり、自己分析で深掘りし過ぎてしまって、「やっぱり自分はこうだ!」と思いすぎてしまって、その範囲から外を見ることができなくなってしまっているのことが、問題かなと思っています。


――自己分析の逆効果と仰いましたが、そういった思い込みを防ぐ方法はありますでしょうか?

 違う選択肢も併せて提示してあげることが大事だと思っています。学生は、だいたいトヨタ自動車などBtoCの知っている企業ばかり受けようとしますが、一般的に認知度が高くないBtoBの企業に対してはなかなか目が向けられない傾向があります。そういう企業にも目を向けてもらえるように、BtoB企業の学内説明会を積極的に開催してもらったり、世の中の社会の仕組みを理解してもらった上で、色々な業界があることを学生に提示したりしています。
 自分がこの業界に行きたいから、この企業のインターンシップを受けるというよりも、まずは働くということに触れてみる。社会に触れてみる。という目的、見せ方にして、学生が社会と接する中で、自分自身の可能性を広げることのできる機会を増やしていきたいと思っています。


――「自分がこの業界に行きたい!」という視点ではなく、別の視点にして考えることができている学生は、現状どのくらいいますか?

 少ないと思います。就活の面接でよく「学生時代に力を入れていることは何ですか?」と聞かれることが多いですが、学業以外何も思いつかないという学生が多いのが現状です。失敗を恐れてか、課外活動で色々なことにチャレンジする学生がまだまだ少ないと思います。
 学業は学業でいいとは思いますが、社会と接して自己成長できた経験の1つとして、インターンシップが挙げられますが、社会人と自分の差を理解し、そこから自分自身がどう努力したのかということも自己PRの1つになることを学生に説明しています。
 自己成長の1つのツールとして、インターンシップを使ってほしいと考えており、そういった点でも、自分が働きたい業界と全く同じでなくても積極的に参加することを勧めております。食品メーカーでも、機械系・電気系出身の社員が活躍していると思いますし、そういう社員さんと接する事で、「あっ、こういう働き方もできるんだ」と知るきっかけになればと思っています。


――そういった機会を、どの時期に実施していますか?

 大学3年生の夏休みにインターンシップに参加するという単位認定の授業が、10年以上前からあります。現在受け入れ企業が200社以上、参加学生も300名を超えます。また、多様な価値観を持った人たちに触れ、視野を広げることの重要性を学ぶという意味では、鳥人間コンテストなどの「学生プロジェクト」というものがあります。学科の枠を超えてメンバーが集まり、学生自身が年間計画を立てたり、スポンサーを獲得したりなど、協働作業をする場を設けることをしています。
 また、毎年夏に、八王子キャンパスで「科学教室」を実施しています。地元の小学生・中学生を相手に、学生が先生となって教える体験をしたり、親御さんも含めて一緒に実験をしたりなど、いろんな年代の人たちとコミュニケーションがとれる場を提供しています。
 これらは、学年問わず実施しているものですが、何年も継続して参加し、世界大会に出ましたという学生もいますし、学生の意欲次第でいろんなものに参加できると思います。逆に、待っているだけでは相手から声はかかりませんので、学生の自由意志という点で非常に難しいところではあります。


――学生プロジェクトや科学教室に参加されている学生は、意欲のある学生が多いと思いますが、意欲のない学生は、どうしたら意欲を持つことができるでしょうか?

 学生プロジェクトや科学教室は1つのツールなので、それに限らず、自分の趣味嗜好に合ったアルバイトやボランティアなど、趣味遊びでもいいので、たくさんの人と接することが重要だと思います。
 学生には、常日頃から言っているのですが、老若男女問わず、いろんな世代の人と関わることが学びという点で大切なことであり、将来、技術者として活躍するためには学生時代に、いろんな価値観、国境問わず接することがポイントかと思います。


――実際に、いろんな人と関わることができている学生は多いですか?

 残念ながら少ないと思います。学校自体は、非常にいい立地にありながら、なかなか外に出ていきたがらないという学生が多いです。例えば、国籍を問わず、他大学の学生と関わることで、同じ年代の人が頑張っている様子を見て刺激をもらったり、違う価値観を受け入れたりできると思うのですが、他大学の学生とも関わるように促しても、動けない学生がほとんどです。自分から殻を破っていける学生が少ないのが現状です。


――学生が自分で何か動いたり、殻を破ったりできるようになるために、何か取り組みはしていますか?

 本学の学生が外に出ていきたがらない背景としては、自己肯定感が高くないからだと思っています。なぜ自己肯定感が高くないかを考えると、大学入試の際の偏差値が影響しているからではないかと思っています。偏差値を引きずって就活に入り、大手に行きたいと言いながらもチャレンジすることをなかなかしない学生がいます。
 そこを解消するためには、経験や成功体験を積み上げることができる場を提供してあげることぐらいしかできないと思っています。
 全学的には、ハイブリッド留学という取組を2013年度から始めたり、建築学部での例をあげますと、3.11の被災地の人たちに対して、ボランティア活動の一環として、現地の避難所の体育館などで設計図を引いて、ダンボール家具や間仕切りを作ったり、被災地の新たなまちづくりのアイディアを提案するというフィールドワークを行ったりしました。学校で学んできたことを活かしたボランティアをする中で、相手目線で創るという経験、得た知識を社会で発揮することで誰かの役に立つ経験をしました。例えば、そういったひとつひとつの取り組みが、学生の自己肯定感を高め、自信を持つことに繋がると考えています。


――建築学部の例は、おそらく3・4年生での例かと思いますが、1・2年に対しては何か経験や成功体験できることを提供していますでしょうか?

 1・2年生に対しては、学生プロジェクトや部活動の他になかなか機会を提供できていないのが現状です。研究活動する上では、基礎学力が重要となるので、1・2年生は、基礎学力を身につけることを徹底しています。また、技術者として働く上で重要な「協働作業」の場をたくさん提供しています。そこを第1のミッションとしています。


――1・2年に対して、経験や成功体験の提供は難しいということですが、意欲をつけさせる取り組みはしていますか?

 日頃の授業の中で、どういう目的で、社会とどうつながっているのか、どういう利益をもたらすのかなど、今やっている勉強がこういった企業のこういう商品に活かされているということを提示できれば、授業に対する取り組み方や、就活に対する熱意にもつながってくると思います。そういった授業を展開してもらえるように、委員会を通して、教員に働きかけをしています。


――就職支援課として、今後の課題・展望をお聞かせください。

 課題としては2つあります。
 1つ目は、内定を獲得できる学生と獲得できない学生の二極分化が広がるなか、学生のメンタル面での弱さが目につくことです。ちょっとしたつまずきで、もう就職活動をしないとか、授業自体も出てこないなど、こちらからアプローチしてもなかなか連絡がつかないということがあります。
 2つ目は、BtoBの企業に目を向けさせることです。自分や親が知っている企業は、ほんの一握りの企業であって、世の中に存在する企業のすべてではないということを伝え、可能性を広げさせたいと思います。例えば、工場見学を実施して、リアルな働く姿をみてもらったり、キャリアパスのモデルとなる卒業生の話はいちばん効果的なので、OB・OGの座談会など、卒業生の話を聞く機会を設けたりしようかと思っています。
 本学の就職支援のゴールは、「内定を獲得させること」ではなく、「世の中で活躍できる人材を送り出すこと」です。そのための支援を積極的に展開していこうと思います。


(この記事は、2014年5月某日に、工学院大学 就職支援課内でインタビューした内容をもとに構成されています。)